初任給を引き上げる企業が増加中。背景と不公平感への対応も解説

初任給を引き上げる企業が増加中。背景と不公平感への対応も解説

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新卒採用の募集要項を見ると、「初任給30万円台」という企業も珍しくなくなってきました。以前と比べて、初任給を大きく引き上げる企業が目立っています。

たとえばファーストリテイリングは、2026年3月入社の新卒社員について、グローバルリーダー候補の初任給を月額33万円から37万円へ、地域正社員を25万5,000円から28万円へ引き上げました。同社はその理由として、採用競争力の強化や、グローバル水準で働く人材の成長・挑戦を後押しすることを挙げています。

こうした初任給引き上げの背景には、単なる「新卒社員への待遇改善」だけではなく、人材獲得競争の激化、物価上昇、若手人材の定着、そして既存社員を含めた賃金制度の見直しといった複数の要因があります。

この記事では、企業が初任給を引き上げる主な理由と、実際の企業事例、さらに初任給を見直す際に注意したい人事制度上のポイントを解説します。

初任給を引き上げる企業が増えている

近年は、企業規模や業種を問わず、初任給を引き上げる動きが広がっています。

厚生労働省の最低賃金に関する審議でも、2025年時点で、人材獲得競争の激化を背景に、前年を大きく上回る初任給引き上げを行う企業が多くみられると指摘されています。あわせて、人材の確保・定着やモチベーション向上を目的とした「人への投資」という側面も示されています。(参照:2025年7月22日 令和7年第2回目安に関する小委員会 議事録 | 厚生労働省)

実際、2026年度の新卒初任給を見ると、パナソニックでは学部卒27万8,000円、パナソニック コネクトでは学部卒29万円以上、富士通では職責に応じて月額29万4,000円または31万5,000円など、高い水準が設定されています。

初任給の水準そのものが、採用市場で企業を比較する際の重要な要素になっているといえるでしょう。

初任給が引き上げられている主な理由

人材獲得競争が激しくなっている

最も大きな理由の一つが、採用市場における人材獲得競争です。少子化によって若年人口が減少するなか、新卒人材を確保することは企業にとって年々難しくなっています。

求職者側から見れば、同じような仕事内容や業界であれば、給与水準の高い企業が選択肢に入りやすくなります。そのため企業側も、競合企業との初任給差を放置すると、応募者そのものが集まらなくなる可能性があります。実際、企業事例でも、採用競争力を確保するために大卒初任給を引き上げたケースが確認されています。

物価上昇への対応

物価上昇も、賃金引き上げを後押しする要因です。生活費が上昇する一方で給与水準が変わらなければ、実質的な購買力は低下します。新卒社員も例外ではありません。家賃や食費、光熱費などの負担が増えるなか、企業側も若手社員が生活を安定させられる給与水準を意識する必要性が高まっています。

若手社員の定着につなげたい

初任給引き上げには、「採用する」だけでなく「辞めてもらわない」という目的もあります。せっかく新卒社員を採用しても、数年以内に離職されれば、採用費や教育コストが再び発生します。

そのため初任給を含めた若手層の処遇改善は、採用施策だけでなく、定着施策の一部として捉えられるようになっています。

初任給を引き上げた企業の例

ファーストリテイリング

冒頭でも紹介したファーストリテイリングは、2026年3月入社から、グローバルリーダー候補の初任給を月額33万円から37万円へ引き上げました。地域正社員も25万5,000円から28万円へ引き上げています。同社は、グローバル水準の仕事に挑戦する人材の採用競争力を高めることに加え、入社直後から高い目標への挑戦を促し、生産性向上と持続的成長につなげる考えを示しています。

つまり、初任給アップを単なる待遇改善ではなく、人材戦略・成長戦略の一部として位置づけている点が特徴です。

KDDI

KDDIは2025年、非管理職全体の賃上げとあわせて、初任給を30万5,000円以上に引き上げる方針を公表しました。

同社ではジョブ型人事制度を導入しており、高い評価を受けた人材の処遇を重点的に引き上げることで、専門性を持つ「プロ人財」の育成を進めています。初任給だけを切り離して変更するのではなく、既存社員を含めた報酬制度全体の見直しと組み合わせている点がポイントです。

初任給だけを上げると「給与の逆転」が起きることも

初任給引き上げは採用力を高める一方で、新しい課題を生むこともあります。

代表的なのが、既存社員との給与バランスです。

たとえば、

  • 新入社員:月給30万円
  • 入社3年目社員:月給29万円

という状態になれば、経験や業務責任のある既存社員より、新入社員の給与のほうが高くなる可能性があります。

こうした状態は「給与の逆転」や「給与カーブの圧縮」として問題になることがあります。

三菱UFJ信託銀行の人事報酬に関するレポートでも、初任給の大幅引き上げによって給与カーブが平坦化し、同業他社の金額を追うだけの対応では、人事制度全体にひずみが生じる可能性があると指摘されています。

厚生労働省が紹介する企業事例でも、大卒初任給の引き上げとベースアップを同時に実施した際、新入社員と既存の若手社員との不公平感が生じないよう給与カーブを調整したケースが紹介されています。(参照:若者が定着する職場づくり 取り組み事例集 事例14 | 厚生労働省)

初任給を上げるなら、人事制度全体を確認する

初任給の見直しは、採用担当者だけで完結するテーマではありません。

少なくとも、次のような点を確認する必要があります。

  • 新入社員と既存社員の給与バランス
  • 昇給幅と給与カーブ
  • 等級ごとの給与レンジ
  • 評価結果と昇給の連動
  • 管理職と一般社員の給与差
  • 総額人件費への影響

特に重要なのが、「初任給を上げたあと、社員の給与がどのように上がっていくのか」という設計です。

初任給だけ30万円に変更して、その後の昇給ルールを変えなければ、数年後に給与差がほとんどつかなくなることがあります。すると社員から、「経験を積んでも給料がほとんど上がらない」「新人と自分の給与がほとんど変わらない」といった不満が生まれる可能性があります。

そのため、初任給引き上げを検討するときは、初任給という一点ではなく、入社から管理職までの賃金カーブ全体を確認することが重要です。

他社の初任給をそのまま真似すればよいわけではない

競合企業が「初任給30万円」と発表すると、自社でも同じ水準まで上げるべきではないかと考えたくなります。

しかし、初任給は高ければ高いほどよいとは限りません。企業によって、採用したい人材や業務内容、人員構成等は異なります。初任給は単に採用市場へのアピールだけでなく、自社の人材戦略・賃金制度・人件費管理を踏まえて決めるべき数字です。

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初任給引き上げを検討するときの3つの視点

初任給を見直す際は、少なくとも次の3つの視点で検討するとよいでしょう。

まずは「採用市場」です。同業他社や同地域の企業と比較し、自社の給与水準が大きく見劣りしていないかを確認します。
次に「社内公平性」です。初任給引き上げによって、既存社員との給与逆転や、等級間の賃金差の縮小が起こらないかを確認します。
そして「人件費」です。新卒社員だけでなく、既存社員の給与調整まで含めた場合に、会社として継続的に負担できるかを試算します。

この3つを同時に確認することで、採用競争力だけを優先した場当たり的な賃上げを防ぎやすくなります。

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まとめ:初任給引き上げは「採用施策」だけではない

初任給を引き上げる企業が増えている背景には、人材獲得競争の激化、物価上昇への対応、若手社員の定着、人的資本への投資などがあります。一方で、初任給だけを大きく引き上げると、既存社員との給与逆転や給与カーブの圧縮といった新しい問題が生じる可能性があります。

そのため、初任給の見直しは、「新卒採用のためにいくら出すか」ではなく、「自社の人材をどのような基準で評価し、どのように処遇していくか」という人事制度全体の問題として考えることが重要です。

初任給の引き上げをきっかけに、等級制度や評価制度、給与レンジ、昇給ルールまで見直してみると、自社の人事制度に潜んでいた課題が見えてくることもあります。

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