退職金制度の廃止に伴う前払い退職金とは?移行手続きと税務上の注意点を徹底解説
「退職金制度を廃止して、前払い退職金に切り替えたい」——人事担当者からこうした相談を受ける機会が増えています。少子高齢化や人材の流動化を背景に、終身雇用を前提とした退職金制度を維持することが難しくなり、月々の給与や企業型確定拠出年金(DC)に振り替える前払い退職金制度への移行を検討する企業が増加しているのです。
しかし、退職金制度の廃止と前払い退職金への移行は、単に支給方法を変えるだけでは済みません。税務上の取り扱いや従業員への説明、社内規程の整備など、検討すべき論点が数多くあります。
本記事では、国税庁・厚生労働省の公的資料を踏まえながら、人事担当者が押さえておくべき制度廃止と前払い化のポイントを、実務目線で解説します。
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目次
- 退職金制度の廃止が進む背景
- 前払い退職金とは?仕組みと基本のポイント
- 退職金制度を廃止する際の主な移行パターン
- 前払い退職金の税務上の取り扱いに要注意
- 廃止から移行までの実務フロー
- 移行後の人事課題と企業内研修の重要性
- まとめ
退職金制度の廃止が進む背景
近年、退職金制度の見直しを検討する企業が増えている背景には、複数の要因があります。
- 終身雇用を前提とした人事制度そのものの見直し
- 転職市場の活発化による人材の流動化
- 年功的な積立負担が企業経営を圧迫していること
- 退職時よりも在職中の処遇を重視したいという従業員側のニーズの変化
特に中小企業では、将来の支払いに備えた資金繰りの負担が大きく、既存の制度を廃止し、その分を月々の給与や前払いとして現役世代に分配する動きが広がっています。とはいえ、退職金制度の廃止は労働条件の不利益変更にあたる可能性が高く、後述する労使協議のプロセスを軽視すると、思わぬトラブルに発展しかねません。
前払い退職金とは?仕組みと基本のポイント
前払い退職金の定義
前払い退職金とは、本来であれば退職時にまとめて支給される退職金を、在職中の給与に上乗せする形で毎月(または毎年)分割して支給する仕組みです。「退職金前払い制度」と呼ばれることもあり、従業員は退職を待たずに退職金相当額を受け取れるというメリットがあります。
前払い退職金が導入される目的
厚生労働省の資料でも、退職金・企業年金制度を見直す際の移行先の一つとして、賃金としての前払いが紹介されています(厚生労働省「退職金・企業年金の移行の選択肢」を参照)。企業が退職金制度を見直す際には、企業型確定拠出年金(DC)への移行や前払い退職金制度の導入など、複数の選択肢があります。

退職金制度を廃止する際の主な移行パターン
退職金制度を廃止する場合、移行先としては主に次の4つが考えられます。それぞれメリットと留意点が異なるため、自社の状況に合った選択が重要です。
| 移行先 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|
| 確定給付企業年金(DB) | 既存の体系をほぼそのまま移行できる | 企業が資産運用リスクを負う |
| 確定拠出年金(DC) | 企業が運用リスクを負わない | 従業員への投資教育や制度設計が必要 |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 積立不足でも移行しやすい | 中小企業のみ利用可能 |
| 前払い退職金 | 資金繰りの負担を平準化できる | 税務・社会保険上の取り扱いに注意が必要 |
前払い退職金の税務上の取り扱いに要注意
前払い退職金を検討するうえで、人事担当者が最も誤解しやすいのが税務上の取り扱いです。
退職所得と給与所得の違い
退職金は通常「退職所得」として扱われ、退職所得控除や2分の1課税という優遇措置が適用されます。一方、在職中に分割で支給されるこの前払い分は、原則として「給与所得」として扱われ、退職所得のような優遇措置は適用されません。
| 区分 | 退職所得(通常の退職金) | 給与所得(前払い分) |
|---|---|---|
| 課税方法 | 退職所得控除+2分の1課税 | 総合課税(優遇措置なし) |
| 支給タイミング | 退職時に一括支給 | 在職中に分割支給 |
| 従業員の税負担 | 比較的軽い | 相対的に重くなりやすい |
旧勤続期間分を前払いする場合の注意点
国税庁の質疑応答事例では、企業が従来の退職金制度を廃止して前払い退職金制度へ移行する際の取り扱いが示されています(国税庁「企業内退職金制度の廃止に伴って前払支給の退職手当として支給する給与」を参照)。
この事例によれば、移行前の旧勤続期間に係る退職手当を、実際の退職時にまとめて支給する場合は退職所得として扱われますが、退職を待たずに在職中に前払いとして支給する場合は、新たな制度の制定の有無にかかわらず、給与所得として取り扱われるとされています。つまり「前払い退職金」という名称であっても、支給のタイミングが退職時でない限り、税務上は退職金として認められない点が重要なポイントです。人事担当者は、導入の際にこの税務上の違いを正確に理解し、従業員への説明資料に反映させる必要があります。
廃止から移行までの実務フロー
退職金制度の廃止から新制度への移行までは、一般的に次のようなステップで進めます。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 現状分析 | 既存の規程・積立状況・対象人数の確認 |
| 2. 移行先の検討 | DB・DC・中退共・前払いなどの比較検討 |
| 3. 労使協議 | 従業員代表・労働組合との合意形成 |
| 4. 規程改定 | 賃金規程の改定、就業規則の変更 |
| 5. 従業員説明 | 税務上の取り扱いを含めた周知・説明会の実施 |
| 6. 移行実施 | 新制度のスタートとモニタリング |
労使協議をていねいに進める
退職金制度の廃止は、多くの場合、労働条件の不利益変更に該当します。前払い化によって従業員の税負担が増える可能性がある以上、十分な説明と合意形成のプロセスを省略することはできません。説明が不十分なまま制度変更を強行すると、従業員の納得感が得られず、モチベーション低下や離職につながるリスクもあります。
社会保険料への影響も確認する
前払い退職金は給与に上乗せして支給されるため、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額に反映される点にも注意が必要です。退職時に一括で支給される従来型の退職金は社会保険料の対象外ですが、前払い化した分は毎月の給与とみなされ、企業・従業員双方の社会保険料負担が増える可能性があります。人事担当者は、税務上の取り扱いだけでなく、社会保険料への影響も含めてシミュレーションを行い、従業員への説明資料に反映させておくことが望ましいでしょう。
移行後の人事課題と企業内研修の重要性
退職金制度を廃止し新たな前払い制度へ移行した後も、人事担当者の役割は終わりません。現場では、次のような課題がよく見られます。
- 給与所得として課税される仕組みを従業員が理解していない
- 管理職が部下から制度変更について質問された際に正確に説明できない
- 将来のライフプランを従業員自身が設計できていない
こうした課題を解決する最も確実な方法は、企業内研修を通じて制度の仕組みと税務上の注意点を全社的に周知することです。人事部門が一方的に資料を配布するだけでは、従業員一人ひとりの理解度には差が生まれてしまいます。定期的な企業内研修を実施し、前払い退職金の仕組みや退職金制度廃止の背景、税務上のメリット・デメリットを繰り返し説明することで、従業員の納得感と制度への信頼を高めることができます。特に管理職層への研修は、現場からの問い合わせに的確に対応できる体制づくりにもつながり、移行後の混乱を最小限に抑える効果が期待できます。
まとめ
退職金制度の廃止と前払い退職金への移行は、人材の流動化や企業経営の効率化を背景に増加している一方、税務上の取り扱いや労使協議など、慎重な対応が求められるテーマです。この前払い分は給与所得として課税される点や、移行先には確定給付企業年金・確定拠出年金・中小企業退職金共済といった選択肢がある点を正しく理解し、制度設計を進めることが欠かせません。
退職金制度廃止や前払い退職金への移行を検討している人事担当者の方は、まず社内の現状分析と労使協議の準備から始め、従業員への説明には企業内研修を積極的に活用してみてください。制度変更を従業員の納得とともに進めることが、トラブルを避け、安心して働き続けられる職場づくりへの第一歩となります。
本記事は2026年6月時点の制度動向をもとに作成しています。最新情報は公的機関の発表をご確認ください。
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