年末調整の書類を提出しない社員への正しい対応と実務ポイント
KEYWORDS 年末調整
年末調整の書類回収は、毎年の繁忙期に必ず発生する定例業務です。ところが、提出しない社員が一定数いると、源泉徴収票の発行や給与計算の確定が後ろ倒れになり、全社のオペレーションに波及します。放置は得策ではありません。
実務上の整理と一次対応の型を整えれば、現場は驚くほど安定します。この記事では、中小企業の経営者・人事担当者がすぐ使える考え方と運用例を解説します。
目次

年末調整を「提出しない」時に起きること

提出が滞ると、控除適用の判断や源泉徴収税額の精算ができず、年末賞与・1月給与の確定処理に影響します。本人にとっても過不足税額が翌年まで持ち越され、確定申告の手間や還付遅延が生じるでしょう。会社側は回収・確認・差し戻しの手数が増え、問い合わせ対応の負荷も高まります。まずは「未提出が誰にどの程度の不利益を生むのか」を可視化し、現場の共通認識にすることが肝要です。
よくある未提出の理由と背景
未提出の背景は単純な失念だけではありません。扶養や保険料控除の理解不足、転居や氏名変更に伴う書類不備、兼業・副業に起因する判断迷いが並びます。短期雇用やシフト制の職場では、配布・回収のタイミング不一致も起こりがちです。外国籍社員は用語の壁で止まることもあるでしょう。理由ごとに打ち手が異なるため、まずは分類し、連絡文面や案内資料を最適化する設計が重要になります。
会社側の法的・実務上の位置づけ
会社は源泉徴収義務を負い、年末調整はその実務の一部として行います。ただし、社員が資料を出さない場合に無理やり控除を適用することはできません。必要情報が揃わなければ、会社は把握できる範囲で計算を確定し、本人には自らの申告手続きを案内するのが現実的です。重要なのは、経緯と説明内容を記録化し、後から処理理由が追える状態にしておくことです。
年末調整が提出されない/拒否された場合の一次対応
年末調整の未提出が発生すると「会社に協力する気がないのか?」と身構えてしまうかもしれませんが、そのほとんどは意図的な拒否ではなく、単なる「うっかり忘れ」や「日々の業務の多忙」によるものです。まずは深刻なトラブルと捉えず、事務的な不備をサポートするスタンスで臨むことが、スムーズな回収への近道となります。
提出拒否」への対応ステップ
万が一、明確に「出したくない」「拒否する」という意思表示があった場合は、以下の手順で対応します。
- 理由の聴取: 「面倒だから」「制度がよくわからない」「プライバシーを教えたくない」など、まずは理由をフラットに聞き取ります。
- 選択肢の提示: 無理に強要せず、「会社で調整を行うメリット(手間がかからない)」と「自身で確定申告を行う手間」を比較提示します。
- 最終的な着地点: 「会社での年調は見送り、本人が税務署で確定申告を行う」という選択肢を正式に案内します。この際、「会社は案内を尽くしたが、本人の意思で申告を行う」という経緯を必ず書面やメールで記録に残してください。
事実確認・属性確認(副業・乙欄・退職者など)
まずは対象者の就労実態を洗い出します。副業の有無、途中入社・退職、他社からの年末調整実施の有無、氏名・住所・生計同一の変更点を確認します。回収履歴や督促記録を時系列で残し、本人への案内に説得力を持たせましょう。店舗や現場単位で回収している場合は、伝言ゲームで齟齬が生まれやすいです。担当者・期日・不足項目を一枚に整理し、関係者の可視化を徹底します。
リスク説明と選択肢提示(年調・確定申告)
未提出が続くと、控除が適用されず手取りが目減りする場合があります。還付が遅れ、本人の事務負担も増えるでしょう。会社としては、必要情報なしに調整はできないと説明し、提出か、自己申告(確定申告)かの二択を明示します。あわせて、いつまでに提出すれば会社処理に間に合うか、間に合わない場合の次善策は何かを、期限とともに案内します。曖昧さを残さないのがポイントです。
未提出・拒否時の一次対応早見表(状況/会社の扱い/本人への伝え方)
| 状況 | 会社の扱い | 本人への伝え方 |
|---|---|---|
| 提出遅延(忘れ・多忙) | 期限再設定のうえ回収継続 | 再提出期限と不足項目を明記し、受理条件を示す |
| 内容不備(控除証明欠落等) | 一時保留、証憑追加で受理 | 必要証憑の具体名と提出方法を案内する |
| 提出拒否・自己申告希望 | 会社処理は見送り、記録化 | 不利益と確定申告手順、期限を明確に通知 |
上表は実務現場で迷いやすい分岐を3分類に整理したものです。各ケースで「会社の扱い」と「本人への伝え方」をセットにし、担当者間で文面と手順を統一すると、処理品質が安定します。
未提出をゼロに近づける:リマインド設計と効率的な運用フロー

年末調整の未提出が発生するのは、個人の不注意だけではなく「運用の設計」に要因があります。提出率を高め、管理者の工数を削減するための「仕組みづくり」のポイントを整理します。
1. 期日逆算の「三段階リマインド」と定型化
「誰に・何を・いつ」伝えるかを型に落とし込み、全社告知から個別催促、最終警告までをスケジュール化します。リマインドは回数ではなく「タイミングと情報の出し分け」が肝心です。開始前の「予告」で書類準備を促し、中盤の「個別催促」ではチャットツール等の開封率の高い媒体を使って、未提出者へ特定のアクションを求めます。最終通知では「期限を過ぎると会社で調整できず、自身で確定申告が必要になる」という具体的な不利益を明示し、後回しにしている層へ決断を迫る戦略的なスケジュール設計が求められます。
- 一次通知:全体告知(開始時)
- 内容: 方針、提出方法、期限の周知。
- ポイント: 社内ポータル、チャット、紙配布を併用し、情報の「見落とし」を防ぎます。
- 二次通知:個別催促(期限数日前)
- 内容: 未提出者への特定と、不足項目の可視化。
- ポイント: 「未提出:保険料控除証明書」など具体名を出して、アクションを促します。
- 最終通知:最終警告(期限当日〜直後)
- 内容: 期限後の対応(確定申告の案内)の明示。
- ポイント: 「受理できない場合は会社での年調は見送り、自身で確定申告が必要」と、不利益を明確に伝えて意思決定を迫ります。
2. 判断を迷わせない「型」とFAQの整備
属人的な対応を排し、誰が対応しても同じ結果になるよう、フローとFAQを標準化します。担当者による判断のブレを防ぐには、マニュアル以上に「決定マトリクス」の整備が有効です。差し戻し基準を明確に言語化して共有し、過去の履歴に基づいたFAQ集を準備することで、誰が対応しても同じ精度で受理できる体制を築きます。外国籍や副業者などの例外ケースも、エスカレーションルートの一本化と判断経緯の記録を徹底することで、翌年以降のさらなる標準化へとつなげることが可能になります。
- 記録の徹底: 判断に迷うケースほど、「提出か自己申告か」の二択に戻し、その経緯を必ず記録化して残すことが要諦です。
- 標準フローの策定: 「起票 → 確認 → 不足通知 → 受理 → 記録」の直線型フローを基本とし、例外ルート(確定申告への誘導など)を明文化します。
- 対象者別FAQ:
外国籍社員: 「控除証明=保険会社の書類」など、平易な語釈を併記。
短期・副業者: 他社での年調有無を先に聴取し、乙欄適用の判断基準を明確にする。
3. 電子化と提出導線の最適化
提出のハードルを下げるには、電子化も選択肢に挙げられます。入力フォームの活用とUI(操作画面)の工夫が不可欠です。年末調整を「年に一度の面倒な作業」から「迷わない体験」へ変えるUI設計が不可欠です。スマートフォン対応を前提とし、回答内容に応じて不要な入力欄を非表示にする「条件分岐」を導入することで、心理的ハードルを大幅に下げます。また、送信前の「自動エラーチェック」を実装すれば、差し戻し原因の多くを未然に防げるほか、証明書類の画像アップロード導線を整えることで、原本提出の停滞も解消できます。
- スマホ対応と必須入力: 現場スタッフでも隙間時間に提出できるようスマートフォンを前提としたUIにし、必須項目を設定することで差し戻し率を下げます。
- 進捗の可視化: 拠点・店舗ごとの提出率をダッシュボードで共有すれば、現場管理者が自発的にフォローできる体制が整います。
- ハイブリッド運用のルール化: 紙提出が残る場合は、受付場所・時間・差し戻し基準を厳格に掲示し、担当者ごとの判断のブレを排除します。
人事・労務の制度設計のご相談
未提出問題は、毎年の「単発イベント」ではなく、社内規程・責任分界・記録方法の総合設計に起因します。提出期限や差し戻し基準、最終案内の文言、確定申告への誘導、記録の保存年限までを文書化すると、現場の迷いは確実に減るはずです。多拠点・シフト制の企業は、拠点長の役割定義と提出率の見える化が鍵になります。電子化を併用する場合は、紙との併走期間の運用も決めておくと安心でしょう。
年末調整で書類を提出しない社員への対応は、毎年の個別対応では限界があります。提出期限や差し戻しの基準、確定申告への誘導、記録様式までを一体で設計すると、現場は判断に迷いません。特に多拠点やシフト制の組織では、責任分界と回収フローを可視化するだけで提出率は安定します。自社の実態に合った制度設計を整え、年末調整の未提出対応を恒常運用へ移行することが、結果として人事工数と税務リスクの双方を下げる近道です。専門家の知見を活用し、初期設計から検証まで伴走する体制をご検討ください。
経営者・人事部門のための
人事関連
お役立ち資料
資料内容
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まとめ
年末調整の未提出は、本人の不利益と会社の工数増を同時に招きます。だからこそ、一次対応の型、三段階リマインド、電子化と紙のハイブリッド、そして例外のFAQを先回りで用意することが重要です。運用を期日逆算で固定し、説明と記録を一体化すれば、翌年の負債は着実に減るでしょう。最終的に目指すのは「誰が担当しても同じ結論に至る」状態です。制度設計と現場運用を両輪で整え、繁忙期を安定させてください。人事・労務の体制づくりを専門家と進めたい場合は、以下から無料お見積もり相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。
