傷病手当金(休職手当)の支給条件といくらもらえるか完全ガイド

傷病手当金(休職手当)の支給条件といくらもらえるか完全ガイド

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突然の病気や思わぬケガで仕事を休まざるを得なくなった場合、収入が途絶えてしまう不安は誰にでもあります。しかし、健康保険に加入している方には「傷病手当金」という心強い制度が用意されています。

本記事では、傷病手当金の支給条件から具体的な支給額の計算方法、申請手続きまで、企業の人事担当者や休職を検討している従業員の方に向けて詳しく解説します。

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目次

傷病手当金制度を正しく理解し、従業員をサポートする

従業員が病気やケガで長期休職する際、人事担当者として最も多く受ける質問が「傷病手当金はいくらもらえますか?」「どうすれば受給できますか?」というものです。

本記事では、人事担当者が押さえておくべき傷病手当金の支給条件、計算方法、申請手続きについて詳しく解説します。従業員への適切な情報提供により、安心して療養できる環境を整えることができます。

傷病手当金(休職手当)とは

傷病手当金とは、協会けんぽや健康保険組合の被保険者が業務外の病気やケガで働けなくなった場合に支給される健康保険の給付金です。休職期間中の生活保障を目的とした制度で、企業には休職者への給与支払い義務がないため(ノーワーク・ノーペイの原則)、この制度が従業員の生活を支えます。

人事担当者が理解すべき重要ポイント

  • 健康保険(社会保険)の被保険者が対象
  • 国民健康保険では基本的に支給なし
  • 企業の給与支払い義務とは別の制度

企業内研修で人事担当者がこの制度を正しく理解することで、従業員からの相談に適切に対応できます。

支給される4つの条件

人事担当者として、従業員から「傷病手当金を受給できますか?」と聞かれた際、以下の4条件をすべて満たしているか確認しましょう。

1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業

業務災害・通勤災害は労災保険の対象となり、傷病手当金は支給されません。精神疾患の場合、パワハラ等が原因なら労災保険の対象となる可能性があります。人事担当者は、両者の違いを理解し適切に判断する必要があります。

2. 仕事に就くことができない状態

医師の意見等を基に、被保険者の業務内容を考慮して労務不能か判断されます。

3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかった

待期期間の考え方

項目内容
待期期間連続3日間の休業
支給開始4日目から
有給休暇待期期間に含まれる
給与の有無待期期間中は関係なし

待期期間は連続が条件です。1日でも出勤すると起算がリセットされます。人事担当者は、従業員に有給休暇の活用を提案し、最初の3日間は有給で収入を確保する方法を案内できます。

4. 休業した期間について給与の支払いがない

給与支給がある場合は対象外ですが、傷病手当金より少額なら差額が支給されます。企業が独自の休職手当を支給する場合、この調整を理解しておく必要があります。

いくらもらえる?支給額の計算方法

人事担当者が最も質問される「いくらもらえるか」について、正確に回答できるよう計算方法を理解しましょう。

基本計算式

【支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額】÷ 30日 × 2/3

つまり、おおむね給与の3分の2(約67%)が支給されます。

具体的な計算例

例1:標準報酬月額30万円の場合

  • 300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円/日
  • 30日分:約200,000円

例2:昇給があった場合

  • 最初3カ月:28万円、その後9カ月:30万円
  • (280,000円×3+300,000円×9)÷12÷30×2/3 = 6,556円/日

例3:加入期間が12カ月未満の場合 入社3カ月、標準報酬月額24万円の場合、以下のいずれか低い方を使用:

  • (1) 240,000円÷30×2/3 = 5,333円
  • (2) 300,000円÷30×2/3 = 6,667円(全被保険者平均) → 低い方の5,333円が支給額

標準報酬月額別の支給額目安

標準報酬月額1日あたり30日分
20万円約4,444円約133,000円
30万円約6,667円約200,000円
40万円約8,889円約267,000円

人事担当者は、給与システムから標準報酬月額を確認し、従業員に概算額を提示できるよう準備しておきましょう。

支給期間:通算1年6カ月

傷病手当金は支給開始日から通算1年6カ月受給可能です。令和4年1月の法改正により「通算」方式になったため、出勤して給与を受けた期間は支給期間にカウントされません。

これにより、リハビリ出勤など段階的な復職を試みやすくなりました。人事担当者は、この制度を活用した柔軟な復職支援プログラムを検討できます。

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申請手続きと人事担当者の役割

申請の流れ

  1. 従業員からの相談受付 休職の相談があった際、傷病手当金制度を案内
  2. 医師の診断 従業員が医師から労務不能の証明を取得
  3. 申請書の準備 健康保険傷病手当金支給申請書の記入
  4. 事業主証明 人事担当者が出勤状況・給与支払い状況を証明
  5. 協会けんぽ等へ提出 管轄支部または健康保険組合に提出

人事担当者が記入する事業主証明欄

  • 会社名、所在地
  • 休業期間と出勤状況
  • 給与支払いの有無と金額
  • 労働日数と労働時間

申請のタイミング 1カ月ごとにまとめて申請するのが一般的です。人事担当者は、月末締めで申請書を準備し、速やかに提出するフローを確立しておきましょう。

支給までの期間 初回申請:2~3カ月程度、2回目以降:2~3週間程度かかります。従業員には事前にこの期間を伝え、生活資金の準備を促すことが重要です。

退職時の注意点と継続給付

退職後も受給できる条件

従業員が退職する場合、以下の条件をすべて満たせば継続給付が可能です:

  1. 被保険者期間が継続して1年以上
  2. 退職日に傷病手当金を受けているか受けられる状態
  3. 退職日に出勤していないこと(最重要)

人事担当者は、退職日に「挨拶だけでも」と出勤させないよう注意が必要です。退職日に出勤すると継続給付を受けられなくなります。

退職時の対応フロー

退職予定の休職者には、以下を必ず説明します:

  • 退職日は欠勤または有給休暇扱いにする
  • 退職後の継続給付の条件
  • 国民健康保険への切り替え手続き

企業内研修でこの重要ポイントを共有することで、従業員の不利益を防げます。

よくある質問への対応

Q:うつ病でも受給できますか?

A:精神疾患も対象です。ただし、パワハラ等が原因の場合は労災保険の対象となる可能性があるため、慎重に判断が必要です。

Q:有給休暇を使い切ってから申請すべきですか?

A:有給休暇も待期期間に含まれるため、最初の3日間は有給を使い、4日目以降を欠勤とすることで収入を最大化できます。

Q:社会保険料はどうなりますか?

A:在職中は引き続き発生します。給与天引きできない場合の納付方法を事前に取り決めておきましょう。

まとめ:人事担当者の役割

傷病手当金制度の適切な運用には、人事担当者の正確な知識が不可欠です。

押さえるべき重要ポイント

  1. 支給条件:業務外、労務不能、待期3日後、無給
  2. 支給額:標準報酬月額の約67%
  3. 支給期間:通算1年6カ月
  4. 申請:事業主証明が必要
  5. 退職時:退職日の出勤で継続給付不可

人事担当者が取るべきアクション

  • 定期的な社内研修で制度を周知
  • 申請手続きのマニュアル整備
  • 従業員からの相談に迅速対応
  • 復職支援プログラムの構築

企業内研修を徹底し、すべての人事担当者が傷病手当金制度を正確に理解することで、従業員が安心して療養に専念できる環境を整えることができます。これは従業員満足度の向上、離職率の低下、企業イメージの向上にもつながる重要な取り組みです。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。