【人事担当必見】出産手当金をもらえないケースとは?支給条件と従業員サポートの実務ポイント
従業員から「出産手当金はもらえますか?」と質問されたとき、適切に答えられますか?出産手当金は産休中の従業員にとって重要な経済的支援ですが、実はすべての従業員が対象となるわけではありません。
人事担当者として、どのようなケースで出産手当金がもらえないのかを正しく理解し、従業員に適切な情報提供ができる体制を整えることは、企業の信頼性向上や人材定着にもつながります。
本記事では、出産手当金がもらえない5つの主要ケースと支給条件、さらに企業内研修で徹底すべきポイントまで詳しく解説します。
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目次
- 出産手当金の基本知識
- 出産手当金がもらえない5つのケース
- 出産手当金の支給条件を正しく理解する
- 人事担当者が押さえるべき申請手続きの実務
- 出産手当金がもらえない従業員への対応策
- 企業内研修で徹底すべき知識とは
- よくある質問と回答例
- まとめ
出産手当金の基本知識
出産手当金とは何か
出産手当金は、健康保険の被保険者が出産のために会社を休業し、その期間に給与が支払われない場合に支給される給付金です。出産前後の生活を経済的に支援する制度として、多くの従業員にとって重要な役割を果たしています。
人事担当者として押さえておくべき基本事項は次の通りです。
制度の概要と目的
出産手当金は健康保険法に基づく制度で、産前産後の休業期間中の収入を補填することを目的としています。対象期間は出産予定日の42日前(多胎妊娠は98日前)から出産後56日までの最大98日間です。
支給額は、支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額を30で割った金額の3分の2に相当する額となります。例えば、標準報酬月額が24万円の従業員の場合、1日あたり約5,333円が支給されます。
出産手当金がもらえない5つのケース
人事担当者が従業員対応で最も重要なのは、どのような場合に出産手当金がもらえないのかを正確に把握しておくことです。以下、5つの主要なケースについて詳しく説明します。
ケース1:国民健康保険に加入している従業員
国民健康保険には出産手当金の制度自体が存在しません。これは、国民健康保険が健康保険法ではなく国民健康保険法に基づく別の制度だからです。
フリーランスや自営業から転職してきた従業員、あるいはパート・アルバイトで週20時間未満の勤務など社会保険の加入要件を満たさない従業員は、国民健康保険に加入しているケースがあります。
このような従業員には、事前に出産手当金の対象外であることを明確に伝え、代替となる支援制度(出産育児一時金など)について案内することが重要です。
但し、市区町村が運営する国民健康保険には制度がありませんが、一部の国民健康保険組合では独自の給付がある場合があります。念のため加入先の規約を確認するよう促すとより親切です。
| 加入保険 | 出産手当金 | 出産育児一時金 |
|---|---|---|
| 健康保険(被保険者) | ○ | ○ |
| 国民健康保険 | × | ○ |
| 健康保険(被扶養者) | × | ○ |
ケース2:健康保険の扶養に入っている従業員
配偶者などの健康保険に被扶養者として加入している従業員も、出産手当金の対象外です。これは、出産手当金が「被保険者本人」に対してのみ支給される制度だからです。
パートタイマーやアルバイトで週の所定労働時間や月の所定労働日数が正社員の4分の3未満であり、かつ年収が130万円未満の場合、配偶者の扶養に入っているケースが多く見られます。
人事担当者は、雇用契約締結時や妊娠報告時に、従業員の健康保険加入状況を確認し、扶養加入者には出産手当金がもらえないことを説明する必要があります。
ケース3:健康保険の任意継続制度を利用している従業員
退職後に健康保険の任意継続制度を利用している元従業員は、原則として出産手当金を受給できません。
ただし、以下の条件をすべて満たす場合は例外的に支給対象となります。
- 退職日までに継続して1年以上被保険者であったこと
- 退職日当日に出勤していないこと
- 資格喪失日(退職日の翌日)の時点で、すでに出産手当金を受給しているか受給できる状態にあったこと
人事担当者は、出産を理由に退職を希望する従業員に対して、退職日の設定が出産手当金の受給資格に影響することを事前に説明し、適切なタイミングでの退職をアドバイスすることが望ましいでしょう。
ケース4:休業中に給与を受け取っている従業員
出産手当金は「休業期間中に報酬を受けていない」ことが支給要件の一つです。したがって、産休中に給与を支給している企業では、その従業員は出産手当金の対象外となります。
ただし、支給している給与が出産手当金の額より少ない場合は、差額分が出産手当金として支給されます。
例えば、出産手当金の日額が5,000円で、会社が日額3,000円の給与を支給している場合、差額の2,000円が出産手当金として支給されます。
企業としては、産休中の給与支給方針を明確にし、就業規則や社内規程に明記しておくことが重要です。
ケース5:申請期間が過ぎている従業員
出産手当金の申請期限は、休業開始日から2年以内と定められています。この期限を過ぎると、支給要件をすべて満たしていても一切受給できなくなります。
特に退職後に申請する元従業員は、会社からのフォローが途絶えがちで、申請を忘れて期限切れになるリスクが高まります。
人事担当者は、産休取得予定者や退職予定者に対して、申請期限について明確に伝え、必要に応じてリマインドする仕組みを整えることが望まれます。
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出産手当金の支給条件を正しく理解する
3つの支給要件
出産手当金を受給するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
要件1:健康保険の被保険者であること
出産する本人が会社の健康保険に「被保険者」として加入していることが必要です。雇用形態(正社員・契約社員・パート)は直接関係ありませんが、社会保険の加入要件を満たしている必要があります。
要件2:妊娠4か月(85日)以後の出産であること
妊娠85日以上での出産が対象です。ここでいう「出産」には、正常分娩だけでなく、早産、死産、流産、人工中絶も含まれます。ただし、妊娠85日未満の流産や中絶は対象外となります。
要件3:出産のために休業していること
実際に労務に従事しておらず、かつその期間に給与が支払われていないことが条件です。産前産後の休業期間中であっても、出勤したり給与が支払われている日は、出産手当金の対象外となります。
支給期間と金額の計算方法
支給期間
- 産前:出産日(出産予定日)以前42日間(多胎妊娠の場合は98日間)
- 産後:出産日の翌日から56日間
出産予定日より遅れて出産した場合、遅れた日数分も支給対象に含まれます。
支給額の計算式
1日あたりの支給額 = 支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3
計算例
標準報酬月額24万円の従業員が98日間休業した場合
- 1日あたり:240,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 5,333円
- 総支給額:5,333円 × 98日 = 522,634円
| 標準報酬月額 | 1日あたりの支給額 | 98日間の総支給額 |
|---|---|---|
| 20万円 | 約4,444円 | 約435,512円 |
| 24万円 | 約5,333円 | 約522,634円 |
| 28万円 | 約6,222円 | 約609,756円 |
| 32万円 | 約7,111円 | 約696,878円 |
人事担当者が押さえるべき申請手続きの実務
申請の流れと必要書類
出産手当金の申請は、基本的に会社の人事部門が窓口となって行います。スムーズな申請のために、以下の流れを把握しておきましょう。
申請の基本的な流れ
- 従業員から妊娠・産休取得の報告を受ける
- 「健康保険出産手当金支給申請書」を準備
- 産休開始前に従業員に申請書を渡す
- 出産後、医師・助産師に証明欄を記入してもらう
- 会社が事業主証明欄を記入
- 健康保険組合または協会けんぽに申請
- 審査・支給(申請から約1〜2か月後)
必要な書類
- 健康保険出産手当金支給申請書
- 出勤簿の写し
- 賃金台帳の写し
- 母子手帳のコピー(出生届出済証明が記載されたページ)
申請タイミングと注意点
申請のタイミングについては、産前分と産後分をまとめて申請するケースと、分けて申請するケースがあります。
一括申請のメリット
- 手続きが1回で済む
- 会社の事務負担が少ない
分割申請のメリット
- 産前分を早く受け取れる
- 資金繰りに不安がある従業員に適している
人事担当者は、従業員の状況に応じて柔軟に対応できるよう、両方のパターンを理解しておくことが望ましいでしょう。
出産手当金がもらえない従業員への対応策
出産手当金の対象外となる従業員に対しても、企業として適切なサポートを提供することが重要です。代替となる制度や支援策を案内しましょう。
出産育児一時金の案内
出産育児一時金は、健康保険の被保険者または被扶養者が出産した場合に、子ども1人につき50万円が支給される制度です。
出産手当金と異なり、以下の特徴があります。
- 国民健康保険加入者も対象
- 被扶養者も対象
- 休業の有無は問わない
- 給与支給の有無も問わない
つまり、出産手当金がもらえない従業員でも、健康保険に加入(または被扶養者として加入)していれば、出産育児一時金は受給できます。
育児休業給付金の案内
育児休業給付金は、雇用保険から支給される給付金です。出産後に育児休業を取得する従業員は、以下の条件を満たせば受給できます。
- 雇用保険に加入していること
- 育児休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上あること
- 休業期間中の各1か月ごとに、休業開始前の1か月あたりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと
支給額は、休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業開始から6か月経過後は50%)です。
出産手当金がもらえなくても、育児休業給付金は雇用保険からの支給なので、条件を満たせば受給可能です。
企業独自の支援制度の検討
法定の制度だけでなく、企業独自の支援制度を設けることも、従業員満足度向上と人材定着に効果的です。
企業が検討できる支援策の例
- 産休・育休中の一部給与支給
- 出産祝い金の支給
- 育児用品購入の補助
- ベビーシッター利用補助
- 短時間勤務制度の拡充
- 在宅勤務制度の整備
これらの制度を導入する際は、就業規則や社内規程に明記し、全従業員に周知することが重要です。

企業内研修で徹底すべき知識とは
出産手当金に関する正しい知識を人事部門だけでなく、管理職や直属の上司にも共有することで、従業員へのより適切なサポート体制を構築できます。
管理職が知っておくべきポイント
妊娠報告を受けたときの対応
従業員から妊娠報告を受けた際、管理職が最初に確認すべき事項は以下の通りです。
- 出産予定日
- 産休・育休の取得希望
- 復職の意向
- 健康保険の加入状況
この段階で人事部門につなぎ、出産手当金の対象となるかどうかを確認できるようにすることが大切です。
産休前の業務引継ぎ
出産手当金の申請手続きについても、産休前の業務引継ぎの際に説明し、必要な書類を渡しておくことで、スムーズな手続きが可能になります。
人事部門の研修内容
人事部門向けの研修では、以下の内容を網羅的に学ぶ必要があります。
基礎知識
- 出産手当金の制度概要
- 支給要件と支給期間
- 支給額の計算方法
- 申請手続きの流れ
実務対応
- よくある質問への回答例
- トラブル事例と対処法
- 関連制度(出産育児一時金、育児休業給付金)との違い
- 退職者への対応方法
コンプライアンス
- 個人情報の取り扱い
- 関係法令の理解
- 適切な記録・書類管理
定期的に研修を実施し、制度改正があった際には速やかに情報をアップデートすることで、常に正確な情報を従業員に提供できる体制を整えましょう。
よくある質問と回答例
Q1:パート社員でも出産手当金はもらえますか?
A1:雇用形態は関係ありません。パート社員でも、会社の健康保険に被保険者として加入しており、妊娠4か月以上で出産のために休業し、休業期間中に給与が支払われていなければ、出産手当金を受給できます。
ただし、週の所定労働時間や労働日数が正社員の4分の3未満で、配偶者の扶養に入っている場合は対象外となります。
Q2:退職後でも出産手当金はもらえますか?
A2:以下の条件をすべて満たせば、退職後でも出産手当金を受給できます。
- 退職日までに継続して1年以上被保険者であったこと
- 退職日に出勤していないこと
- 資格喪失日の時点で出産手当金を受給しているか受給できる状態にあったこと
これらの条件を満たさない場合、任意継続制度を利用しても出産手当金は受給できません。
Q3:出産手当金の申請を忘れていました。今からでも間に合いますか?
A3:出産手当金の申請期限は、休業開始日から2年以内です。この期限内であれば遡って申請できます。ただし、期限を過ぎると一切受給できなくなるため、早めの申請をお勧めします。
| 休業開始日 | 申請期限 | 期限後の扱い |
|---|---|---|
| 2023年1月1日 | 2025年1月1日 | 受給不可 |
| 2023年6月15日 | 2025年6月15日 | 受給不可 |
| 2024年4月1日 | 2026年4月1日 | 期限内であれば受給可 |
まとめ
出産手当金は、産休中の従業員にとって重要な経済的支援制度ですが、すべての従業員が対象となるわけではありません。人事担当者として、以下の5つのもらえないケースを正確に理解しておくことが不可欠です。
- 国民健康保険に加入している従業員
- 健康保険の扶養に入っている従業員
- 健康保険の任意継続制度を利用している従業員
- 休業中に給与を受け取っている従業員
- 申請期間が過ぎている従業員
また、出産手当金の対象外となる従業員に対しては、出産育児一時金や育児休業給付金などの代替制度を適切に案内することが重要です。
企業が取り組むべき3つのアクション
- 社内規程の整備:出産手当金に関する取り扱いを明文化し、従業員がいつでも確認できるようにする
- 定期的な研修の実施:人事担当者だけでなく、管理職にも制度を理解してもらう
- 相談体制の構築:従業員が気軽に相談できる窓口を設ける
従業員の妊娠・出産をサポートする体制を整えることは、企業の信頼性向上と人材定着に直結します。企業内研修を徹底し、全社的に出産手当金制度への理解を深めることで、従業員が安心して出産・育児に臨める環境を提供しましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
