休職手当と傷病手当金の違いは?雇用保険の受給条件から申請方法まで完全解説
病気やケガで仕事を休まざるを得ない状況に陥ったとき、経済的な不安は誰にでも訪れます。そんなとき、休職手当や傷病手当金といった制度が、あなたの生活を支える重要な役割を果たします。
しかし「休職手当って何?」「雇用保険から支給されるの?」「どうやって申請すればいいの?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。実は、休職中に受け取れる手当には複数の種類があり、それぞれ支給元や受給条件が異なります。
本記事では、休職手当と傷病手当金の違いから、雇用保険における受給条件、具体的な申請方法、支給額の計算方法まで、あなたが知っておくべき情報を網羅的に解説します。企業の人事労務担当者はもちろん、いざというときに備えたい全ての方に役立つ内容です。
目次
- 休職手当と傷病手当金の基本を理解する
- 傷病手当金の受給条件を詳しく解説
- 傷病手当金の支給額と計算方法
- 傷病手当金の支給期間
- 傷病手当金の申請方法と手続きの流れ
- 雇用保険における傷病手当(失業中の場合)
- その他の休職中に受け取れる手当・給付金
- 傷病手当金が支給停止・調整される場合
- よくある質問と注意点
- 企業担当者が知っておくべきポイント
- まとめ
休職手当と傷病手当金の基本を理解する
休職手当とは何か
一般的に「休職手当」と呼ばれるものには、厳密な法的定義はありません。多くの場合、健康保険から支給される「傷病手当金」のことを指します。また、企業が独自に定める福利厚生制度として、休職期間中に支給される手当を休職手当と呼ぶケースもあります。
この記事では主に、協会けんぽや健康保険組合から支給される「傷病手当金」について詳しく解説していきます。
傷病手当金の目的と役割
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。休業中は給与が支払われないことが多いため、この制度が経済的な支えとなります。
業務外の事由による病気や怪我が対象となり、原則として給与の約3分の2が支給されます。この制度により、安心して療養に専念できる環境が整えられています。
傷病手当金の受給条件を詳しく解説
傷病手当金を受給するには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
条件1:健康保険に加入していること
健康保険の被保険者であることが大前提です。協会けんぽや健康保険組合に加入している会社員や公務員などが対象となります。国民健康保険に加入している自営業者やフリーランスは、原則として対象外です。
条件2:業務外の事由による病気やケガの療養であること
業務時間外に発症した病気や、プライベートでの事故による怪我が対象です。業務中や通勤中の災害は労災保険の対象となるため、傷病手当金の支給対象外となります。
また、美容整形など自己の意思で受ける治療は支給対象外です。医師の診断により療養が必要と認められることが条件となります。
条件3:仕事に就くことができない状態であること
病気やケガにより、現在の業務に従事できない状態である必要があります。医師の意見や被保険者の業務内容を考慮して、労務不能かどうかが判断されます。
自宅療養の期間も支給対象に含まれます。入院だけでなく、医師の指示により自宅で安静にしている期間も該当します。
条件4:連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
この条件は「待期3日間」と呼ばれ、傷病手当金の支給開始には欠かせない要件です。連続して3日間休業した後、4日目以降の休業日から支給が開始されます。
待期には有給休暇や土日祝日などの公休日も含まれるため、給与の支払いの有無は関係ありません。ただし、連続して3日間休業する必要があり、途中で出勤すると待期期間がリセットされます。
| 休業パターン | 待期成立の可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 月・火・水と連続3日休業 | ○ 成立 | 連続3日間の休業条件を満たす |
| 月・火休業、水出勤、木休業 | × 不成立 | 連続性が途切れるためリセット |
| 金・土・日と連続3日休業 | ○ 成立 | 公休日も待期に含まれる |
条件5:休業期間中に給与の支払いがないこと
傷病手当金は、休職中に収入がなくなった労働者を支援する制度です。そのため、休職期間中に会社から給与が支給される場合は対象外となります。
ただし、会社から支給される手当などが傷病手当金の額を下回る場合は、その差額分が支給されます。
傷病手当金の支給額と計算方法
基本的な計算式
傷病手当金の1日あたりの支給額は、以下の計算式で求められます。
支給額(日額)= 支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
例えば、標準報酬月額が30万円の場合:
- 300,000円 ÷ 30日 × 2/3 = 6,667円(1日あたり)
つまり、おおむね月給の3分の2が支給されることになります。
昇給した場合の計算方法
12カ月間の間に昇給があった場合でも、その期間の平均標準報酬月額を算出します。
例:3カ月間は28万円、昇給後の9カ月間は30万円の場合
- (280,000円 × 3カ月 + 300,000円 × 9カ月) ÷ 12カ月 ÷ 30日 × 2/3 = 6,556円
加入期間が12カ月未満の場合
健康保険の加入期間が12カ月に満たない場合は、以下のいずれか低い方で計算します。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
- 標準報酬月額の平均値(令和7年4月1日以降の支給開始日の場合:30万円)
※全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額(年度により改定あり。令和6年度は30万円)
| 加入期間 | 計算方法 |
|---|---|
| 12カ月以上 | 直近12カ月の標準報酬月額の平均 |
| 12カ月未満 | 加入期間の平均と全国平均のいずれか低い方 |
傷病手当金は「非課税」であること
傷病手当金は所得税・住民税の課税対象になりません。これは読者にとって大きなメリット(安心材料)です。
傷病手当金の支給期間
通算1年6カ月の支給期間
傷病手当金は、支給を開始した日から通算して1年6カ月間受給できます。「通算」であるため、途中で職場復帰した期間があっても、その期間を除いて最長1年6カ月まで受給可能です。
例えば、6カ月間休職後に3カ月間復職し、再び休職した場合でも、残りの1年間は傷病手当金を受給できます。
法改正による変更点
2020年7月1日以前に支給開始された場合は、出勤期間を含めて支給開始日から最長1年6カ月でしたが、現在は通算制度に変更されています。
傷病手当金の申請方法と手続きの流れ
必要書類の準備
傷病手当金の申請には、以下の書類が必要です。
- 健康保険傷病手当金支給申請書
- 医師の意見書(労務不能であることの証明)
- 事業主の証明(賃金支払い状況など)
申請書は、協会けんぽの公式ホームページからダウンロードできるほか、協会けんぽの窓口でも入手可能です。
従業員自身で申請する場合
- 医療機関で診察を受け、医師に意見書を記入してもらう
- 傷病手当金支給申請書に必要事項を記入
- 会社に事業主証明欄への記入を依頼
- 必要書類を揃えて、居住地を管轄する協会けんぽの窓口に提出または郵送
会社を通じて申請する場合
多くの企業では、人事労務部門が従業員に代わって申請手続きを代行します。
- 従業員が医師の意見書を取得
- 会社の人事部門に申請を依頼
- 会社が必要書類を取りまとめて協会けんぽに提出
企業の担当者は、従業員の負担を軽減するために、スムーズな手続きをサポートすることが重要です。
雇用保険における傷病手当(失業中の場合)
ここまで解説してきた「傷病手当金」は健康保険からの給付ですが、雇用保険にも「傷病手当」という制度があります。両者は全く別の制度ですので、混同しないよう注意が必要です。
雇用保険の傷病手当とは
雇用保険の傷病手当は、失業中に病気やケガで働けなくなった人が受け取れる給付金です。基本手当(失業手当)の受給資格を持つ人が、15日以上続けて就業できない場合に支給されます。なお、30日以上働けない状態が続く場合は、傷病手当を受け取るのではなく、失業手当の受給期間を延長する手続きも選択可能です。
受給条件
- 基本手当の受給資格があること(離職日までの2年間で雇用保険に12カ月以上加入)
- 受給期間中に15日以上連続して働けないこと
- 労災保険の対象ではないこと(業務外の傷病であること)
- ハローワークで求職の申し込みをした後に発生した傷病であること
支給額の計算方法
雇用保険の傷病手当の金額は、基本手当と同額です。
支給額 = 離職前6カ月の賃金合計 ÷ 180日 × 給付率(50~80%)
例:離職前6カ月の合計賃金が120万円の場合
- 1,200,000円 ÷ 180日 = 6,666円(賃金日額)
- 6,666円 × 0.7(給付率70%の場合)= 4,666円
給付率は年齢や賃金額によって異なり、収入が低い人ほど高めに設定されます。
申請方法
- ハローワークで傷病手当支給申請書を入手
- 医師の証明書を取得
- 必要書類をハローワークに提出

その他の休職中に受け取れる手当・給付金
会社独自の休職手当
企業によっては、就業規則に基づいて独自の休職手当を支給している場合があります。これは法的義務ではなく、企業の福利厚生の一環として任意で設けられる制度です。
支給額や支給期間は会社ごとに異なるため、自社の就業規則を確認することが大切です。
労災保険の休業補償給付
業務中や通勤中の事故によるケガや病気の場合は、労災保険から休業補償給付が支給されます。
- 業務災害:休業補償給付
- 通勤災害:休業給付
- 支給額:休業1日あたり賃金の約80%(給付60%+特別支給金20%)
労災保険には支給期間の上限がなく、要件を満たす限り継続的に受給できます。
出産手当金
出産のために休業する場合は、健康保険から出産手当金が支給されます。
- 支給期間:出産日以前42日から出産翌日以降56日まで
- 支給額:標準報酬月額 ÷ 30日 × 2/3
育児休業給付金
1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
- 支給額:休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%(181日目以降は50%)
介護休業給付金
家族の介護のために休業する場合、雇用保険から介護休業給付金が支給されます。
- 支給期間:最長93日
- 支給額:休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%
| 制度名 | 支給元 | 対象 | 主な支給額 |
|---|---|---|---|
| 傷病手当金 | 健康保険 | 在職中の傷病 | 標準報酬月額の約2/3 |
| 雇用保険の傷病手当 | 雇用保険 | 失業中の傷病 | 基本手当と同額 |
| 休業補償給付 | 労災保険 | 業務災害・通勤災害 | 賃金の約80% |
| 出産手当金 | 健康保険 | 出産のための休業 | 標準報酬月額の約2/3 |
| 育児休業給付金 | 雇用保険 | 育児休業 | 賃金日額の50~67% |
傷病手当金が支給停止・調整される場合
出産手当金との関係
傷病手当金と出産手当金が同時に受けられる場合、出産手当金が優先されます。ただし、傷病手当金の額が出産手当金を上回る場合は、その差額が支給されます。
年金との併給調整
老齢年金を受給している場合
資格喪失後に傷病手当金の継続給付を受けている方が、老齢年金を受けている場合は傷病手当金は原則支給されません。ただし、年金額の360分の1が傷病手当金の日額より低い場合は、差額が支給されます。
障害年金を受給している場合
同じ病気やケガで障害厚生年金を受ける場合、傷病手当金は原則支給されません。ただし、障害年金額の360分の1が傷病手当金の日額より低い場合は、差額が支給されます。
労災保険の休業補償給付を受けている場合
過去に労災保険から休業補償給付を受けていて、同一の病気やケガで労務不能となった場合は、傷病手当金は支給されません。また、別の原因でも労災保険から休業補償給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。
ただし、休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、その差額が支給されます。
よくある質問と注意点

うつ病や適応障害でも傷病手当金は受けられるか
はい、受けられます。傷病手当金は精神疾患も対象となります。うつ病や適応障害などで医師が労務不能と判断した場合、他の条件を満たせば支給されます。
ただし、パワーハラスメントなど業務に起因して精神疾患を発症した場合は、労働災害に該当する可能性があり、その場合は労災保険から休業補償が受けられます。
社会保険料の支払い義務について
傷病手当金の受給中(休職中)であっても、社会保険料(健康保険・厚生年金)の免除はありません。 (※産休・育休は免除されますが、傷病休職は免除されません)
任意継続被保険者の場合
会社を退職後、任意継続被保険者となった場合、任意継続期間中に新たに発生した病気やケガについては傷病手当金は支給されません。
ただし、退職前に既に傷病手当金を受給していた場合や、受給できる状態にあった場合は、資格喪失後も継続して受給できます。
資格喪失後の継続給付
退職日の前日までに被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に傷病手当金を受けている(または受けられる状態にある)場合は、資格喪失後も引き続き支給を受けられます。
ただし、一旦仕事に就ける状態になった後、再び働けなくなった場合は、傷病手当金は支給されません。
| 条件 | 継続給付の可否 |
|---|---|
| 被保険者期間1年以上 + 退職日に受給中 | ○ 可能 |
| 被保険者期間1年未満 | × 不可 |
| 一旦復職後、再度休業 | × 不可 |
企業担当者が知っておくべきポイント
従業員への情報提供の重要性
人事労務担当者は、従業員が安心して療養に専念できるよう、傷病手当金の制度について正確な情報を提供することが重要です。特に休職を申し出た従業員に対しては、早い段階で受給条件や申請方法を説明しましょう。
スムーズな申請サポート
企業が申請手続きを代行する場合、必要書類の準備や協会けんぽへの提出を迅速に行うことで、従業員の経済的不安を軽減できます。
企業研修の実施
社内研修を通じて、管理職や人事担当者が傷病手当金の基礎知識を習得することで、従業員からの相談に適切に対応できる体制を整えることが重要です。定期的な研修により、制度の最新情報を共有し、組織全体で従業員をサポートする文化を醸成しましょう。
まとめ
病気やケガで働けなくなったとき、傷病手当金や雇用保険の傷病手当は、生活を支える重要な制度です。本記事では、休職手当と傷病手当金の違い、受給条件、申請方法、支給額の計算方法について詳しく解説しました。
重要なポイント
- 傷病手当金は健康保険から支給され、在職中の休業が対象
- 雇用保険の傷病手当は失業中の傷病が対象で、制度が異なる
- 受給には連続3日間の待期を含む4日以上の休業が必要
- 支給額は標準報酬月額の約3分の2
- 支給期間は通算で1年6カ月まで
- 企業の担当者は従業員への適切な情報提供とサポートが重要
いざというときに慌てないよう、今のうちから制度の内容を理解しておくことが大切です。企業の人事労務担当者の方は、社内研修を通じて制度の理解を深め、従業員が安心して療養できる環境を整えましょう。
制度について不明な点がある場合は、協会けんぽや管轄のハローワーク、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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