国民健康保険料の年末調整は必要?控除対象者と手続き方法を徹底解説
年末調整の時期になると、人事労務担当者の皆さんは従業員からさまざまな質問を受けることでしょう。特に「国民健康保険料は年末調整で控除できるのか」という疑問は、毎年必ず出てくる代表的な問い合わせの一つです。
企業に勤める従業員でも、中途採用者の増加や働き方の多様化により、国民健康保険料を支払っているケースは少なくありません。本記事では、国民健康保険料と年末調整の関係について、控除対象者の見極め方から具体的な手続き方法まで、人事担当者が知っておくべき情報を解説します。適切な年末調整業務を行うことで、従業員の税負担を正しく軽減し、企業としての信頼性を高めることができます。
目次
- 国民健康保険料とは?基礎知識を押さえよう
- 年末調整と社会保険料控除の仕組み
- 年末調整で国民健康保険料の控除が必要なケース
- 控除対象となる期間と金額
- 年末調整における具体的な手続き方法
- 年末調整時の注意点とよくあるミス
- 確定申告が必要になるケース
- 企業研修を通じた年末調整業務の質向上
- まとめ:正確な年末調整で従業員をサポートしよう
国民健康保険料とは?基礎知識を押さえよう
国民健康保険制度の概要
国民健康保険とは、日本の国民皆保険制度を支える公的医療保険の一つです。企業に勤める人が加入する健康保険(被用者保険)や、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度と並び、主に自営業者や非正規雇用者などを対象としています。
国民健康保険は市区町村または国民健康保険組合が運営しており、加入者は毎月または年数回に分けて保険料を納付します。この保険料は、その年の所得や世帯人数などに応じて決定されます。
健康保険との主な違い
国民健康保険と企業の健康保険には、いくつか重要な違いがあります。
保険料の負担方法
- 健康保険:会社と従業員が折半で負担
- 国民健康保険:加入者が全額負担
扶養制度の有無
- 健康保険:配偶者や子どもを扶養に入れることができ、追加保険料は不要
- 国民健康保険:扶養という概念がなく、家族一人ひとりが加入者となり保険料が発生
給付内容の違い
- 健康保険:出産手当金、傷病手当金などの現金給付がある
- 国民健康保険:基本的に医療給付のみで、現金給付は限定的(国保組合は除く)
国民健康保険の加入対象者
国民健康保険は主に自営業者や個人事業主、フリーランス、農業・漁業従事者などが加入します。また、会社を退職した人や、週20時間未満のパート・アルバイトなど健康保険の加入要件を満たさない人も対象となります。企業で働く正社員の多くは健康保険に加入しますが、勤務時間が短い従業員や、一定期間無職だった後に就職した人などは、国民健康保険料を支払っている可能性があります。
年末調整と社会保険料控除の仕組み
年末調整とは何か
年末調整とは、1年間に給与から源泉徴収された所得税と、実際に納めるべき所得税額との過不足を精算する手続きです。企業が従業員に代わって行うことで、多くの給与所得者は確定申告をする必要がなくなります。
この精算過程で、さまざまな所得控除を適用することにより、従業員が支払うべき税額を正確に計算します。社会保険料控除は、この所得控除の一つです。
社会保険料控除の対象となるもの
社会保険料控除では、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った社会保険料の全額を、所得から差し引くことができます。控除額に上限はありません。
社会保険料控除の対象となる主なもの
| 保険料の種類 | 控除証明書の要否 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 不要 |
| 後期高齢者医療保険料 | 不要 |
| 介護保険料 | 不要 |
| 国民年金保険料 | 必要 |
| 国民年金基金の掛金 | 必要 |
| 健康保険料(給与天引き分) | 不要(企業が把握) |
| 厚生年金保険料(給与天引き分) | 不要(企業が把握) |
| 雇用保険料(給与天引き分) | 不要(企業が把握) |
国民健康保険料は、証明書の添付が不要な点が特徴です。ただし、企業側で内容を確認する必要がある場合には、納税通知書や領収書、振込履歴などの提示を求めることができます。
節税効果の具体例
社会保険料控除を適用することで、課税所得が減少し、結果として所得税と住民税が軽減されます。たとえば、所得税率が10%、住民税率が10%の場合、年間10万円の国民健康保険料を控除申告すると、所得税で1万円、住民税で1万円、合計約2万円の税負担が軽減されます。この節税効果は、支払った保険料が多いほど、また所得税率が高いほど大きくなります。従業員にとって重要な権利ですので、人事担当者は適切な案内を心がけましょう。

年末調整で国民健康保険料の控除が必要なケース
企業の従業員であっても、以下のようなケースでは国民健康保険料の控除申告が必要です。人事担当者は、これらのケースに該当する従業員がいないか確認し、適切にサポートする必要があります。
ケース1:年の途中で入社した従業員
最も頻繁に見られるのがこのケースです。年度の途中で入社した従業員が、入社前に国民健康保険に加入していた場合、その期間に支払った保険料は年末調整で申告できます。たとえば、9月1日に入社したAさんが、1月から8月まで自営業で月額2万円の国民健康保険料を支払っていた場合、16万円を年末調整で申告できます。
中途採用が増えている現代において、このケースは決して珍しくありません。フリーランスから正社員になった人、前職を退職後に求職活動をしていた人、起業後に再就職した人、無職の期間があった人などは特に注意が必要です。
ケース2:従業員自身が国民健康保険に加入している場合
健康保険の加入要件を満たさない短時間勤務のパート・アルバイトなどは、国民健康保険に加入し続けることになります。2024年10月以降、週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金が8.8万円以上、2ヶ月を超えて雇用される見込みがある、学生でないこと、従業員51人以上の企業であることが健康保険の加入要件です。これらを満たさない従業員は、自身で国民健康保険に加入し、保険料を支払っています。年末調整では、この保険料を申告することができます。
ケース3:家族の国民健康保険料を負担している場合
国民健康保険には扶養という概念がないため、家族それぞれが加入者となり保険料が発生します。従業員が生計を一にする家族の保険料を実際に支払っている場合、その金額も控除の対象となります。よくあるのは、自営業の配偶者の国民健康保険料を支払っている、親や子どもの国民健康保険料を負担しているケースです。
重要なポイントは、納税通知書の名義と実際の支払者が異なっていても、実際に支払った人が控除を受けることができるという点です。ただし、特別徴収(年金からの天引き)で支払われている家族の保険料は、その家族本人の控除対象となります。一方、口座振替で従業員の口座から引き落とされている場合は、従業員の控除対象となります。
控除対象となる期間と金額
対象となる納付期間
年末調整で控除対象となる国民健康保険料の納付期間は、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った保険料です。これは発生主義ではなく現金主義に基づいており、実際の支払日が基準となります。12月分の保険料を翌年1月に支払った場合は翌年の控除対象となり、前年の未納分を今年支払った場合は今年の控除対象となります。また、12月に翌年3月分まで前納した場合は、その全額を今年の控除に含めることができます。保険料を分割払いしている場合は、実際に支払った分のみが控除対象です。
控除できる金額
社会保険料控除には上限がありません。したがって、実際に支払った国民健康保険料の全額を控除することができます。
これは生命保険料控除(上限12万円)などとは異なる点で、従業員にとって非常に有利な控除です。
控除額の計算例
| 状況 | 年間保険料 | 控除額 |
|---|---|---|
| 本人のみ(8ヶ月分) | 16万円 | 16万円 |
| 本人+配偶者(通年) | 45万円 | 45万円 |
| 本人+配偶者+親(通年) | 70万円 | 70万円 |
保険料の確認方法
従業員が支払った保険料の金額を確認するには、納付書の控えや領収書を確認する、通帳や口座の取引履歴を確認する、市区町村の窓口で納付証明書を発行してもらう、市区町村のWebサイトで確認する方法があります。人事担当者は、従業員に対してこれらの確認方法を案内しましょう。特に、領収書を紛失している場合でも、市区町村で納付証明書を発行できることを伝えることが重要です。
年末調整における具体的な手続き方法
必要な書類
国民健康保険料の控除を受けるために、従業員は「給与所得者の保険料控除申告書」に記入します。提出が必要な書類は保険料控除申告書のみで、納税通知書、領収書、納付証明書は原則として添付不要です。ただし、企業が内容確認のために提出を求めることは可能です。特に金額が大きい場合や、初めて申告する従業員の場合は、確認のために書類提出を依頼するとよいでしょう。
保険料控除申告書の記入方法
「給与所得者の保険料控除申告書」の社会保険料控除欄には、社会保険の種類(「国民健康保険」または「国民健康保険料」)、保険料支払先の名称(保険料を納付した市区町村名または国保組合名、例:東京都渋谷区)、保険料を負担することになっている人(被保険者の氏名と続柄、例:本人/妻 佐藤花子)、本年中に支払った保険料の金額(1月1日から12月31日に実際に支払った金額)を記入します。
記入時の注意点として、家族の分を支払っている場合はそれぞれ別の行に記入する、複数の市区町村に支払った場合もそれぞれ別の行に記入する、社会保険料控除欄が足りない場合は別紙に記載するか申告書をコピーして使用することを覚えておきましょう。
企業側の確認ポイント
人事担当者は、提出された申告書について、金額が記入されているか、支払先(市区町村名等)が記入されているか、被保険者の氏名・続柄が記入されているか、金額が妥当か(極端に高額でないか)、同じ保険料を重複して申告していないか、国民年金保険料と混同していないか(証明書添付が必要)を確認しましょう。疑問点がある場合は、従業員に確認を取り、必要に応じて納付証明書などの提出を求めましょう。
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年末調整時の注意点とよくあるミス
証明書の添付は必要か
国民健康保険料については、原則として証明書の添付は不要です。これは国民年金保険料や国民年金基金の掛金とは異なる点ですので、注意が必要です。
証明書添付の要否まとめ
| 社会保険料の種類 | 証明書添付 |
|---|---|
| 国民健康保険料 | 不要 |
| 後期高齢者医療保険料 | 不要 |
| 介護保険料 | 不要 |
| 国民年金保険料 | 必要 |
| 国民年金基金の掛金 | 必要 |
ただし、企業として内容を確認したい場合は、納税通知書や領収書、納付証明書の提出を求めることができます。特に以下のような場合は確認を推奨します。
- 初めて国民健康保険料を申告する従業員
- 申告金額が著しく高額な場合
- 記入内容に不明瞭な点がある場合
よくある間違いと対処法
年末調整では、国民健康保険料と国民年金保険料を混同するケースがよくあります。国民年金保険料の場合は控除証明書の添付が必須ですので、従業員への案内時に違いを明確に説明し、申告書に記入例を添付することで防ぎましょう。
また、納税通知書は世帯主宛てに届きますが、実際に支払った人が控除を受けることができます。実際の支払者を確認し、口座振替の場合は振替口座の名義人を確認しましょう。特別徴収(年金天引き)の場合は、天引きされている本人のみが控除できることを説明することが重要です。
対象期間を間違えるケースもあります。年末調整では「その年の1月1日から12月31日」に支払った分が対象であることを明確に伝え、従業員には納付書の控えや通帳で支払日を確認するよう促しましょう。納付義務があっても実際に支払っていない保険料は控除の対象になりませんので、「実際に支払った金額」のみが対象であることを強調し、領収書や口座履歴での確認を促すことが大切です。
記入漏れを防ぐための工夫
従業員の記入漏れを防ぐため、企業として年末調整の1から2ヶ月前に対象者に向けてアナウンスを行い、社内ポータルやメールで情報を発信し、説明会を開催するなどの事前アナウンスが効果的です。また、具体的な数字を入れた記入例を作成し、よくある質問をFAQとしてまとめ、記入の手引きを配布することで、従業員が迷わず記入できるようサポートしましょう。さらに、中途入社者には個別に案内し、前年度に申告があった従業員にはリマインドし、質問しやすい環境を作ることで、漏れのない年末調整を実現できます。
確定申告が必要になるケース
年末調整で国民健康保険料の控除を申告できなかった場合や、年末調整の対象外の従業員については、確定申告で控除を受けることができます。
確定申告で控除すべき人
年末調整の対象外の人として、年の途中で退職し年末調整を受けていない人、給与収入が2,000万円を超える人、2か所以上から給与を受けている人(一定の場合)が該当します。また、年末調整での申告を忘れた人、つまり提出期限に間に合わなかった人、記入漏れがあった人、年末調整後に保険料を支払った人も確定申告で対応します。さらに、副業の所得が20万円を超える人、不動産所得がある人、その他確定申告が必要な人も、国民健康保険料の控除を確定申告で申請できます。
確定申告の方法
確定申告の対象期間は前年の1月1日から12月31日に支払った保険料で、申告期間は原則として翌年の2月16日から3月15日ですが、還付申告の場合は翌年1月1日から5年間可能です。必要書類は確定申告書、源泉徴収票(給与所得がある場合)、国民健康保険料の支払額がわかるもの(納税通知書、領収書、納付証明書など)です。申告方法は、税務署の窓口に持参する、郵送で提出する、e-Taxで電子申告するの3つがあります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って簡単に申告書を作成できます。
還付の可能性
年末調整で国民健康保険料の控除を申告し忘れた場合でも、確定申告を行うことで所得税の還付を受けられる可能性があります。たとえば、年収500万円で所得税率10%の場合、国民健康保険料15万円の申告漏れがあると、還付される所得税は約1.5万円、翌年の住民税軽減も1.5万円となります。従業員には、年末調整で申告できなかった場合でも、確定申告で取り戻せることを伝えましょう。
企業研修を通じた年末調整業務の質向上
研修の重要性
年末調整業務は年に一度しか行わないため、担当者のスキルが維持されにくいという課題があります。また、税制改正も頻繁に行われるため、最新の知識をアップデートする必要があります。国民健康保険料の控除については、対象者の見極めや申告内容の確認など、専門的な知識が求められます。企業内研修を徹底することで、これらの課題を解決し、年末調整業務の質を向上させることができます。
効果的な研修プログラム
新任担当者向けの基礎研修では、年末調整の基本的な仕組み、社会保険料控除の概要、国民健康保険料と健康保険料の違い、各種書類の見方と確認ポイントを学びます。経験者向けの応用研修では、複雑なケースへの対応方法、税制改正の内容と実務への影響、よくある質問への回答例、トラブル事例と対処法を習得します。さらに、ロールプレイング研修を通じて、従業員からの質問への対応、記入内容の確認方法、疑問点の指摘とフォローを実践的に学ぶことができます。
研修による効果
適切な企業内研修を実施することで、業務の効率化として担当者の判断力が向上し処理スピードが上がり、問い合わせへの対応がスムーズになり、修正や再提出が減少します。コンプライアンスの強化では、法令遵守の意識が高まり、ミスや漏れが減少し、税務調査時のリスクが低減します。従業員満足度の向上では、適切な案内により従業員が控除を受けやすくなり、質問に的確に回答できることで信頼が高まり、不安や疑問が解消されます。企業の信頼性向上では、正確な年末調整により企業の信頼性が向上し、従業員の税負担を適切に軽減でき、税務当局からの評価も高まります。
まとめ:正確な年末調整で従業員をサポートしよう
国民健康保険料の年末調整は、適切に行うことで従業員の税負担を大きく軽減できる重要な手続きです。本記事のポイントを改めて整理しましょう。
重要ポイントの再確認
対象者の見極めでは、年の途中で入社した従業員、短時間勤務で国民健康保険に加入している従業員、家族の国民健康保険料を負担している従業員に注意が必要です。控除の条件として、その年の1月1日から12月31日に実際に支払った保険料が対象で、控除額に上限はなく支払った全額を控除でき、証明書の添付は原則不要(ただし企業が確認を求めることは可能)です。手続きの流れは、給与所得者の保険料控除申告書に記入し、社会保険料控除欄に必要事項を記載し、申告漏れがあった場合は確定申告で対応可能です。
人事担当者がすべきこと
事前準備として、対象となる従業員を把握し、わかりやすい案内資料を作成し、質問対応の準備をします。申告受付時には、記入内容を丁寧に確認し、疑問点は従業員に確認し、必要に応じて証明書類の提出を求めます。フォローアップでは、申告漏れがないか確認し、確定申告が必要な従業員に案内し、次年度に向けて改善点を洗い出します。
最後に
国民健康保険料の年末調整は、一見複雑に見えるかもしれませんが、基本的な仕組みを理解すれば決して難しいものではありません。
人事担当者の皆さんには、本記事の内容を参考に、従業員一人ひとりが適切に控除を受けられるよう、丁寧なサポートをお願いします。正確な年末調整業務は、従業員の経済的負担を軽減し、企業への信頼を高める重要な業務です。
働き方が多様化する現代において、国民健康保険料の控除が必要な従業員は今後も増えていくことが予想されます。本記事の情報を活用し、自信を持って年末調整業務に取り組んでいただければ幸いです。
企業内研修を通じて年末調整業務の質を高め、従業員全員が安心して働ける環境を整えていきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
