海外赴任手当の種類と相場を解説|制度設計の注意点とは

海外赴任手当の種類と相場を解説|制度設計の注意点とは

従業員の海外赴任にあたり、「手当をどう設定すればいいか」「他社の相場はどのくらいか」と頭を抱えた経験のある人事担当者は多いはずです。

海外赴任手当は法律で定められていないため、制度の内容は企業によってまちまちです。しかし、設計が甘いまま運用を続けると、赴任者の不満や優秀な人材の流出につながりかねません。

本記事では、海外赴任手当の基本的な考え方から、手当の種類・相場の目安・給与設計の考え方・制度設計の注意点まで、実務に役立つ情報を整理してお伝えします。

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目次

海外赴任手当とは

海外赴任手当とは、従業員を海外に赴任させる際に支給する「上乗せの手当」の総称です。

住宅手当・家族手当・ハードシップ手当など、複数の手当を組み合わせた体系全体を指す場合もあれば、赴任者へのインセンティブとして支給する「海外勤務手当」そのものを指す場合もあります。

支給を義務付けた法律はありませんが、多くの企業は自主的に就業規則や海外勤務規程を整備し、支給基準・金額・支給条件を明文化しています。制度の有無・内容が採用競争力にも直結するため、グローバル展開を進める企業にとっては経営上の重要課題といえます。

海外赴任手当が必要な理由

海外赴任は、慣れない土地での生活・言語の壁・文化の違いなど、国内勤務にはない負担が伴います。赴任先の物価水準や税制によっては、日本と同じ給与のままでは実質的な生活水準が下がるケースも少なくありません。

そのため、手当の設計が不十分だと、次のような問題が生じやすくなります。

  • 赴任候補者が辞退・離職し、グローバル人材の確保が難しくなる
  • 現地でのモチベーション低下が業務パフォーマンスに影響する
  • 帰任後に手当をめぐるトラブル・労使紛争が起きるリスクが高まる

「手当はとりあえず設けておけばよい」という状態から脱し、赴任者が安心して仕事に集中できる環境を整えることが、海外事業の安定運営につながります。また、帰任後に適切な処遇へ戻せる仕組みをあらかじめ整えておくことが、不要なコストや労使トラブルの予防にもなるでしょう。

海外赴任手当の主な種類

海外赴任手当は、一つの手当ではなく複数の手当を組み合わせた体系です。それぞれ目的と支給条件が異なるため、どのような手当があるかを整理しておくことが制度設計の出発点になります。

海外勤務手当(赴任手当)

海外赴任者へのインセンティブとして支給する手当で、ほぼすべての企業が何らかの形で設けています。海外赴任中は現地の労働法が適用されるため、日本の労働基準法に基づく残業代の規定はそのまま適用されません。そのため、時間外労働への対応も含め、異国での生活・商習慣の違いによるストレスへの慰労を目的として支給されます。金額は基本給の一定割合で設定するケースと、定額で設定するケースがあります。

ハードシップ手当

治安・気候・インフラなど生活環境が厳しい地域への赴任者に支給する手当です。コンサルティング会社が提供する「都市別ハードシップスコア」を参考に算出する方法と、定額で支給する方法があります。アフリカ・南米・中東・インドなどへの赴任では支給されることが多い一方、欧米などの先進国への赴任では設定しない企業も多くあります。

住宅手当

赴任地での住居費を会社が負担する手当です。会社が住宅を借り上げて提供する「現物支給」が一般的で、現金支給より税務上有利になるケースもあります。先進国の都市部では月額30万円を超えることもあり、総コストの中でも大きな割合を占めます。

家族手当・単身赴任手当

家族を帯同して赴任する場合は「家族手当」、家族を国内に残す場合は「単身赴任手当(留守宅手当)」を支給します。二重生活によるコスト増や、別居に伴う精神的負担への補填が目的です。配偶者・子どもの人数で金額を変える設計が一般的です。

子女教育手当

赴任先に帯同した子どもの教育費を会社が補助する手当です。海外では日本人学校・インターナショナルスクールなど選択肢が限られ、費用が高額になりやすいため、上限額を設けたうえで実費補助するケースが一般的です。

一時帰国手当・赴任支度金

定期的な一時帰国に要する航空券代を会社が負担する手当です。年1〜2回分を支給するケースが一般的です。また、赴任・帰任時の引越し費用や赴任支度金も多くの企業が負担しています。

海外赴任手当の相場

手当の金額は企業規模・業種・赴任先によって大きく異なりますが、以下が一般的な相場の目安です。自社の水準を見直す際の参考にしてください。

手当の種類相場の目安
海外勤務手当(赴任手当)月額10万〜20万円程度
ハードシップ手当(危険・生活困難地域)ニューデリー・・・月額12万程度
マニラ・・・・・・月額7万程度
北京・・・・・・・月額4万円程度
住宅手当実費負担が基本(赴任先や役職により大きく異なる)
単身赴任手当月額8万〜11万円程度
子女教育手当実費〜年間100万円程度
一時帰国手当年1〜2回分の往復航空券相当

これらはあくまで目安であり、実際には赴任先の生計費指数や為替レート、自社の給与水準を踏まえたうえで個別に設計することが必要です。

海外赴任者の給与設計の考え方

海外赴任者の給与設計には、いくつかの方式があります。自社の規模や赴任先の数、管理体制に合ったものを選ぶことが重要です。代表的な3つの方式を確認しておきましょう。

購買力補償方式

最も広く採用されている方式で、赴任前の日本での給与をベースに、現地の生計費指数と為替レートを掛け合わせて海外基本給を算出します。赴任者への説明がしやすく、国ごとの公平性を担保しやすい点が利点です。ただし、為替や物価の変動があるたびに見直しが必要なため、管理コストがかかります。

別建方式

海外赴任者の給与を、赴任先の現地法人の給与体系に準じて設定する方式です。仕組みがシンプルでわかりやすい反面、日本での給与体系とは切り離されるため、国内給与との整合性が取りにくくなります。帰任後の処遇調整が難しくなるケースもあり、採用する企業は少なくなっています。

併用方式

購買力補償方式と別建方式を組み合わせた方式です。たとえば、基本給は購買力補償方式で算出しつつ、各種手当は現地の給与体系に準じて設定するといった形で運用します。それぞれの方式の利点を活かせる反面、制度設計が複雑になりやすく、管理コストがかかる点が課題です。

制度設計で押さえておきたい注意点

海外赴任手当の制度設計では、手当の種類や金額だけでなく、税務・為替・規程の整備にも目を向けることが大切です。実務でつまずきやすい点を順に確認していきましょう。

海外勤務規程を整備する

手当の種類・金額・支給条件・変更手続きを明文化した「海外勤務規程」の整備は、制度設計の大前提です。規程がなかったり内容が曖昧だったりすると、赴任者ごとの個別対応が必要になり、公平性の問題や労使紛争のリスクが高まります。また、規程は海外からも閲覧できる環境に置いておくことが望ましいとされています。

為替変動への対応ルールを定める

海外赴任者の給与には現地通貨建ての支給が含まれるため、急激な円安・円高が手当の実質価値に直結します。一定の変動幅を超えた場合に金額を見直す基準を、あらかじめ規程に設けておくことで、赴任者の不満やトラブルを未然に防ぐことができます。

税務・社会保険上の扱いを確認する

住宅手当を現金で支給するか現物支給にするかで、課税上の取り扱いが変わります。また、赴任支度金や帰任費用は、海外勤務規程に支給根拠と金額を明記していない場合、給与として課税されるリスクがあります。

社会保険についても注意が必要です。日本と社会保障協定を締結していない国への赴任では、日本と現地の両方で社会保険料を納める「二重加入」が生じます。協定締結国であれば原則として現地加入が免除され、日本の社会保険を継続できますが、赴任先ごとに確認が必要です。

規程の整備と合わせて、税理士や社労士への確認を怠らないようにしましょう。

まとめ

本記事では、海外赴任手当の基本的な考え方から、手当の種類・相場・給与設計の方式・制度設計の注意点を解説しました。

  • 海外赴任手当は法律上の義務ではないが、人材確保・定着・モチベーション維持に直結する重要な制度
  • 手当には海外勤務手当・ハードシップ手当・住宅手当・家族手当・子女教育手当などがある
  • 相場は企業規模・業種・赴任先によって大きく異なる
  • 給与設計は「購買力補償方式」「別建方式」「併用方式」の三つが代表的で、自社の規模や管理体制に合った方式を選ぶことが重要
  • 海外勤務規程の整備・為替変動対応・税務処理や社会保険への対応が制度設計の要

「なんとなく設けている」制度のままでは、赴任者の不満や人材流出のリスクが高まります。まずは自社の手当体系を現状の相場や規程の整備状況と照らし合わせ、見直しが必要な部分を洗い出すことから始めてみましょう。制度の整備が、海外での事業推進を支える基盤となります。

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