退職金制度設計の見直しで企業が押さえるべきポイント
中小企業の人事総務責任者にとって、退職金制度は社員のモチベーションや定着率に直結する重要な要素です。しかし、制度が古いまま放置されていたり、現状の採用市場や人材ニーズに合致していなかったりすると、優秀な人材を確保する上で不利に働くことがあります。さらに、社員が退職する際の不満や制度への不透明感は、企業の信頼性を損なうリスクにもなるでしょう。
そのため、今の時代に合った退職金制度の設計・見直しは避けて通れない課題となっています。本記事では、退職金制度の見直しに取り組む際の必要性や具体的なプロセスを整理します。
目次

退職金制度見直しの必要性
退職金制度は単なる福利厚生の一部ではなく、企業の人材戦略そのものに深く関わっています。たとえば、若手社員にとっては「将来的な安心感」、中堅層にとっては「キャリアの蓄積に応じた報酬」、シニア層にとっては「退職後の生活基盤」として位置づけられます。
しかし、社会情勢や労働市場の変化に伴い、従来の制度が時代遅れになっているケースは少なくありません。特に次のような状況が目立ちます。
- 人材確保の競争激化:同業他社の制度と比較され、採用に不利になる。
- 従業員構成の変化:長期雇用を前提とした制度では、転職やキャリア多様化の時代に対応できない。
- 財務上の負担:従来の退職金積立方法では将来的な支払いに不安が残る。
- 社員の不満:制度の複雑さや不透明さにより、社員が納得感を持てない。
これらはすべて人材の採用・定着率に直結する問題です。したがって、退職金制度は「維持する」ものではなく「時代に合わせて進化させる」ものと捉える必要があります。
よくある見直しのきっかけと課題
退職金制度の見直しを考える企業には、それぞれ具体的な事情や課題があります。多くの場合、採用力の低下や社員定着の難しさといった「人材戦略」に関する側面と、制度の運用負担や法改正への対応不足といった「制度設計・管理」に関する側面が大きな要因です。表面的には一見異なる問題のように映りますが、いずれも放置すれば企業の持続的な成長を阻害するリスクとなります。ここでは、代表的な二つの観点から見直しのきっかけと課題を整理していきましょう。
採用・定着をめぐる制度の不一致
退職金制度の見直しに踏み切る背景には、採用や社員の定着に関わる課題がしばしば存在します。新卒や中途の面接で候補者から福利厚生の詳細を尋ねられた際、他社と比べて制度が見劣りすると、採用競争で不利になりかねません。実際に、制度の弱さが理由で優秀な人材を競合に奪われてしまう例も見受けられます。また、長年勤務した社員が退職時に水準へ不満を抱けば、その声は社内に残る社員へ波及し、士気や会社への信頼度を損ねる恐れがあります。つまり、制度のあり方は採用力や社員の安心感に直結しており、その重要性に気付いたときこそ見直しの大きな契機となるのです。
制度運用や法令対応に関わる問題
もう一つの典型的なきっかけは、制度運用の複雑さや法制度への不適合です。従来型の退職金制度は管理項目が多く、人事総務部門にとって負担が大きくなりがちです。業務コストが増加すると日常業務を圧迫し、効率性を低下させる要因になります。さらに、制度内容が最新の法改正や会計基準に追随していなければ、将来的に財務リスクを抱えたり、コンプライアンス面で問題を招いたりするリスクも否定できません。加えて、制度が複雑でわかりにくいと社員への説明責任を果たしづらくなり、納得感を得るのも困難になります。このような背景から、多くの企業が制度運用面での課題を契機として見直しを検討するのです。
見直しの具体的なプロセス
退職金制度の見直しを進める際は、感覚的に制度を変えるのではなく、段階を踏んで整理することが欠かせません。プロセスを明確にすることで、社内での合意形成もスムーズになり、社員に対しても納得感を持たせやすくなります。
以下に代表的なステップをまとめました。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 現状分析 | 既存制度の仕組みや支給額の推移、将来の財務負担を確認する。 | データに基づく客観的な把握が重要。 |
| 2. 課題抽出 | 社員アンケートや離職率データから制度への不満や問題点を洗い出す。 | 定量と定性の両面で検証。 |
| 3. 方針策定 | 「採用力強化」「財務健全化」「社員納得感」など目的を定める。 | 経営戦略と連動させる。 |
| 4. 制度案の比較検討 | 確定給付型・確定拠出型・ポイント制など複数案を比較。 | シミュレーションで影響を確認。 |
| 5. 社内合意形成 | 経営陣・人事・社員代表と議論し理解を得る。 | 説明資料や試算例が有効。 |
| 6. 導入・周知 | 社員説明会や文書配布を行い、制度の背景とメリットを丁寧に伝える。 | 納得感を高めて定着化。 |
このように、制度見直しは「現状を正しく把握すること」から始まり、「目的の明確化」「制度案の比較」「社内合意」「周知」という一連の流れを経て完成します。表形式で整理することで関係者間の理解が進み、制度の方向性を社内全体で共有しやすくなるのも大きなメリットです。
成功する制度設計のポイント

退職金制度の見直しに成功する企業は、共通していくつかの重要な観点を押さえています。単に制度を刷新するのではなく、社員の期待と企業の持続可能性を両立させることが必要です。
第一に挙げられるのは透明性の確保です。退職金制度は将来の生活基盤に関わるため、社員が「自分はいくらもらえるのか」を具体的に理解できるよう設計することが求められます。不明確さや複雑さは不信感につながり、制度の効果を減じてしまうでしょう。
次に重要なのは柔軟性の確保です。長期雇用が前提だった時代と異なり、今はキャリアの多様化が進んでいます。転職を前提とする社員や、多様な働き方を選択する人材に対応できる制度設計が欠かせません。確定拠出型やポイント制など、在職年数や働き方に応じて柔軟に対応できる仕組みは有効です。
また、制度は企業の経営戦略との整合性を持たせることが大切です。人材確保を強化したいのか、コスト管理を重視したいのか、あるいは企業ブランドを高めたいのか。その目的によって制度設計の方向性は大きく変わります。制度が戦略と連動していなければ、単なる「福利厚生の改善」で終わってしまいます。
最後に、制度導入後の社員への丁寧な周知が成否を分けます。どれほど優れた制度でも、社員が理解していなければ効果は半減します。説明会やシミュレーション資料を用意し、社員一人ひとりが納得できる形で伝えることが不可欠です。
プロの手を借りるという選択肢も
退職金制度の見直しは、社内だけで完結できるものではありません。制度の選択肢は多岐にわたり、法令や会計基準、さらには人材市場のトレンドまで考慮する必要があるためです。ここで有効なのが、専門コンサルタントのサポートを受けることです。
特に中小企業の人事総務担当者にとっては、専門的知識の不足や社内リソースの制約が大きな課題です。その点、外部の専門家を活用することで、制度設計の精度と実効性を高めることができます。
ビズアップの人事コンサルティングサービスでは、退職金制度や賃金制度の設計をサポートしています。無料のお見積もり相談も可能なため、「どこから手をつければよいか分からない」と悩む段階から気軽に相談することができます。
まとめ
退職金制度は、社員の定着率や採用競争力に直結する戦略的な仕組みです。時代の変化に応じて制度を見直さなければ、優秀な人材の流出や採用難といったリスクを抱えることになります。
見直しの際には、現状分析から課題抽出、制度設計方針の策定、社内合意形成までのプロセスを丁寧に踏むことが欠かせません。そして、成功する制度設計には「透明性」「柔軟性」「戦略との整合性」「丁寧な周知」が重要なポイントとなります。
中小企業にとって、これを自力で進めるのは大きな負担です。だからこそ、退職金制度設計に精通したコンサルティングサービスの活用が有効です。専門家の知見を取り入れることで、制度は「人材確保と定着を実現する経営戦略の柱」へと変わります。
もし貴社が退職金制度の見直しを検討しているのであれば、まずは資料請求から始めましょう。現状の課題が整理され、最適な制度設計への道筋が見えてくるでしょう。
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